IR背面調査

IR背面調査3

IR背面調査-2【佐島の夕日(横須賀市)】
ご挨拶
Masaです。
今回は、マサチューセッツ州のカジノ管理委員会が、MGM Resorts International 及びその関連会社のカジノ免許の申請について調査をした中で、最も問題となった事柄(テリー・クリステンセン案件)について説明します。

あらまし
テリー・クリステンセンという人は、ラスベガスのカジノ産業を形成した立役者の一人であり、自身の資産管理会社であるトラシンダという会社を通じてMGM Resorts Internationalの株式を大量に保有していたカーク・カーコリアンという人の顧問弁護士でした。

 カーコリアンは、元プロテニスの選手でかつては日本のテレビコマーシャルにも出ていたこともあるリサ・ボンダーという前妻から起こされていた離婚訴訟の対応をクリステンセンに任せたところ、クリステンセンが雇った探偵がリサ達を盗聴していたことが判明し、この盗聴に関し、クリステンセンは盗聴の共謀と教唆を行っていたことが明らかとなりました。

盗聴と教唆(illegal wiretapping and aiding and abetting)はアメリカの連邦法では自由や人権を踏みにじる犯罪として重罪(felony)と定められており、アメリカのカジノ世界では、重罪を起こした者はカジノに関する免許を持つことが事実上不可能とされ、免許を持っていたとしても剥奪されてしまいます。

アメリカ各州のカジノ法では、重罪が免許申請拒否に該当するとは直接記載されていません(注)が、ネバダ州のカジノ管理当局の調査官であった人によれば、カジノの創成期はともかくとして、カジノ社会からマフィアが排除され大規模な市場からの資金がカジノ事業に流入するようになってからは、重罪者がカジノ免許を取得した例はないとのことです。

問題は、クリステンセンが重罪で起訴され有罪判決を受けた後も、MGMの首脳陣がクリステンセンと密接に関わり、会社経営に関する重要な事項を協議していたことでした。上級役員が、重罪者と関係していることが事実であれば、その役員本人とともに法人自体の免許取得も危ういものとなります。免許を審査する当局としてもこの案件については取締役の各人に対し詳細な質問調査を行うなどし、また調査を受けた側としても相当な苦労とともに時間・コストがかかりました。

以下は、調査報告書の翻訳(適宜要約(abridge)しています)ですが、概ね全容を伝えているつもりです。

(注) 例えばネバダ州のカジノ法(Nevada Gaming Control Act)では、免許付与に関し、次のように規定している。
CHAPTER 463 - LICENSING AND CONTROL OF GAMING
NRS 463.170  Qualifications for license, finding of suitability or approval; regulations.
1. ・・・
2. An application to receive a license or be found suitable must not be granted unless the Commission is satisfied that the applicant is:
(a) A person of good character, honesty and integrity;
(b) A person whose prior activities, criminal record, if any, reputation, habits and associations do not pose a threat to the public interest of this State ・・・

Terry Christensenについての調査報告書

1概要

テリー・クリステンセンは、1987.8/1から2006.2/21の間 MGM Resorts International(以下単にMGMと略称する)の取締役であった。
彼は、不法盗聴及び教唆の嫌疑により連邦裁に起訴された後、ニュージャージー州のカジノ管理委員会の要請により取締役辞任を余儀なくされ、2008.9/29には有罪宣告を受けた。

クリステンセンが起訴され、取締役を辞任し、さらには有罪判決が出されたにもかかわらず、MGMとトラシンダ(MGMの18.6%持株会社)の上級役員は、両社で社外秘としている問題の相談を含め、本人との関与を継続し、彼の関与は、ニュージャージー州及びネバダ州のカジノ管理当局から指摘がなされる2009.9/29まで続いた。

ネバダ州とニュージャージー州のカジノ管理当局は、MGMとトラシンダに対し、クリステンセンが両社に関与した状況についてのレポートの提出を要請し、これに対応するために両社の社外弁護士による包括的な内部調査が行われた。

我々(マサチューセッツ州カジノ管理委員会)は、我々と同様にMGM とトラシンダの免許申請について調査中であったニュージャージー州のカジノ管理当局の調査官と共にこの問題の検討を行った。

我々の調査には、MGM 及びトラシンダの役員8名に対する2013年7月の宣誓をさせた上での質問調査(音声録音も実施)が含まれている。

2013.9/10にはトラシンダの支配者であるカーク・カーコリアンに対する質問調査(非宣誓)が行われた。

2クリステンセンの犯行

クリステンセンは、カーク・カーコリアンから長年の信頼を受けた弁護士兼コンサルタントだった。1987年にトラシンダの社長に就任し、カーコリアンのためにMGM Grand Air及びMGM Grand Corporation(両会社のそれぞれの後継会社はMGM Mirage及びMGM)の設立に尽力した。

弁護士としてのクリステンセンは、ロサンゼルスの法律事務所である”The Christensen, Miller, Fink, Jacobs, Glaser & Shapiro law firm”の設立パートナーであり、その事務所はMGMの主要顧問事務所の一つであった。

クリステンセン問題が起こった原因は、トラシンダの単独所有者であり、MGMの支配株主もあるカーク・カーコリアンに対し、その前妻だったリサ・ボンダーが2002年に起こした養育費の訴訟に起因する。

クリステンセンは、この訴訟案件に関与することとなり、リサ・ボンダーの情報収集を行う目的で個人探偵アンソニー・ペリカーノを雇った。

ところが、FBIがペリカーノを別件で捜査していた際、ペリカーノの事務所から「リサ・ボンダーと彼女の弁護士との会話」及び「ペリカーノとクリステンセンとの会話」の録音テープを押収した。

録音には、リサ・ボンダーに対する盗聴についてのペリカーノとクリステンセンの会話が含まれており、クリステンセンが盗聴犯(共犯)及びその教唆犯であることを優に認定しうるものだった。

クリステンセンは、2006.2/15に盗聴の共犯及び教唆犯の嫌疑で連邦大陪審に起訴された。その結果、2008.8/29に有罪(was convicted)とされ、2008.11/24に25万ドルの罰金と3年の服役刑を宣告(was sentenced)された。

カリフォルニア州の裁判所は、クリステンセンを2008.11/24付で弁護士業務の不適格者であるとし、これによりカリフォルニア州での弁護士業務が出来なくなった。

裁判審理において、クリステンセンはペリカーノに対し盗聴費用として少なくとも10万ドルを支払った証拠が示された。リサ・ボンダーとその友人や家族との様々な局面における会話や訴訟戦略を含めた彼女と弁護士との会話の盗聴が明らかとなり、この情報がペリカーノからクリステンセンに伝えられていたことが明らかになった。

2008.8/20、カーク・カーコリアン(写真左)は、法廷においてリサ・ボンダー(写真右)への盗聴を知らなかったと証言した。

米資産家のカーコリアン氏死去、98歳 - WSJ小林製薬スポルタスCM リサ・ボンダー - YouTube

3クリステンセンの起訴に対するMGMの対応

クリステンセンのMGMの取締役辞任(2006.2/21)を受けて、MGMはクリステンセンが最終的に免責されることを確信しているとのプレスリリースを実施した。

2006.2/28、MGMのコンプライアンス委員会はクリステンセンの起訴を受けて協議を行い、議長のウィリアム・ウルガは、クリステンセンの事務所がMGMの社外弁護士としてMGMの代理人を継続することについて懸念を提起した。

委員会はMGMのカジノ事業の法律顧問である”Lionel Sawyer & Collins law firm”のエレン・ホイットモア弁護士に調査を依頼した。

2006.3/31、委員会においてホイットモアの報告を受け、全会一致で次の勧告を行った。
1.MGMは、クリステンセンのMGMの法律顧問(billing partner)としての職を解くことをクリステンセンの事務所に伝えなければならない。
2.クリステンセンは、今後MGMの訴訟案件への関与させない。
3.クリステンセンの事務所は、MGMの代理人として行う各案件についてクリステンセンを関与させない。

ところが、MGMのCEOのジェームズ・ミュレン(当時はCFO)は、コンプライアンス委員会のメンバーでありながら委員会に出席せず、3年半後に本件に関しての社内調査が行われるまで、会議録にも目を通さなかった。また、当時の法律顧問のゲイリー・ジェイコブスは委員会に出席したものの、クリステンセンの事務所の弁護士でもあるとの理由から評決を棄権した。

その後、議長のウルガは、ゲイリー・ジェイコブスとボブ・ファイス(”Lionel Sawyer & Collins”のシニアパートナー)の両名から、2006.3/31の勧告はMGMにとって厳しすぎて有害であるとして再考を求める電話を受けた。

2006.5/5に委員会が再度召集され、ボブ・ファイスはゲイリー・ジェイコブスの提案(クリステンセンの経験と知識は貴重であって、MGMがクリステンセンの助言を得られないならば実害をもたらす)を述べた。

コンプライアンス委員会は前回の勧告を次のように変更した。
1.クリステンセンは、MGMのbilling partnerを継続する。
2.重要な問題についてのクリステンセンの顧問継続は許容される。
3.クリステンセンの訴訟案件への不関与は(前回勧告を)継続する。
4.新たな勧告として、MGMは、クリステンセンの起訴に係る状況及び彼がMGMに提供した直前四半期のサービスについて、四半期ごとに報告することとする。

ジェームズ・ミュレンは、コンプライアンス委員会のメンバーであったが、当該委員会にも出席しなかった。

コンプライアンス委員会の従前(2006.3/31)の勧告の変更に関して何らの手続きが取られることはなく、2006.5/5の勧告が上級執行役員と取締役会に伝えられた。

コンプライアンス委員会は、上記いずれの勧告についても公式な勧告文書を出すことはなく、執行役員及び各取締役は、後日、コンプライアンス委員会から勧告を受けたことはないと弁明した。

明らかだった事実は、MGMがクリステンセンからの四半期ごとの請求書類を受け取っていたことだけであり、彼が実際にどこまで関与していたかは明らかにされなかった。

MGMは、2008.8/29のクリステンセンの有罪決定(conviction)に関し、カジノ管理当局に対し何らの対応も示さなかった。

MGMの法律顧問であるジェイコブズは、クリステンセンはもはや取締役ではなく、会社に関与していない以上当局への報告は必要ない旨示唆した。

コンプライアンス委員会のメンバーは、判決(sentence)までのクリステンセンはMGMの限定的な法律顧問に留まり、弁護士資格が停止された判決以降は、MGMへの関与は止んだと誤信していた。

しかしながら、クリステンセンの判決が出され弁護士資格が停止された後、13か月に渡って、MGMとトラシンダの上級執行役員は社外秘である事項を含めてクリステンセンに相談をしていた。

4社内調査

2009.9/24にウォールストリートジャーナルからクリステンセンの判決からカーコリアンの共犯が疑われるとの記事が出された。

ニュージャージー州とネバダ州のカジノ管理当局は即座に対応し、クリステンセンが上訴して身柄な自由であった時期にトラシンダ(社外)で働き、MGMとトラシンダとの関係を維持していた事実を把握した。

そこで当局はMGMに対し、クリステンセンとMGMとトラシンダとの関係についての社内調査を行い、把握した事項を書面で報告するように要請した。これにより徹底的な社内調査が行われた。41名の証言が得られ、証言者には、MGMの内外の取締役及び現在若しくは過去の従業員、トラシンダの代表者(representatives)及びパートナーなどが含まれた。

社内調査に際して、取締役会議長のジェームズ・ミュレンと筆頭社外取締役のローランド・ヘルナンデスは、MGMの取締役会に対し、コンプライアンス委員会とともに調査を実施し、その結果を分析して適切な勧告を行うための独立したメンバーによる調査委員会を構成するよう指示した。

調査の結果、クリステンセンとMGM 及びトラシンダの取締役・執行役員との間で交わされた両社との複数の契約が存在した。

これらの契約は、クリステンセンの起訴時から判決までの間、更にはカジノ管理当局がクリステンセンとの関係を遮断すべきと指摘する2009年9月までの間においても締結されていた。

調査報告の概要(The instant Report highlights)では、クリステンセンが取締役を辞任した2006.2/21以降において、クリステンセンが関わったMGMの案件が取り上げられている。

クリステンセンは、取締役辞任後の2006, 2007, 2008年に渡って、カーク・カーコリアンの個人代理人の立場で取締役会に4回出席した。取締役会でクリステンセンが座った席はトラシンダの執行役員であるアンソニー・マンでキックとダニエル・タイラーの席であった。

クリステンセンの有罪判決後のMGM とトラシンダへの関与については次のとおりであるが、これらに限定されない。
1.CEOであるテリー・ラニの辞任を受け、MGMの役員選任について協議
2.MGMの新任CEOであるジェームズ・ミュレンの報酬パッケージの協議
3.MGMの取締役候補(事後実際に取締役に就任した者)の選考に係る協議

4.2009年3月にドバイワールド(CityCenter joint venture partner Dubai World)からMGMに対して起こされた訴訟への対応に係る協議。MGMの法律顧問のゲイリー・ジェイコブスは、ドバイワールドに対する反論文書をクリステンセンに提示して助言を求め、解決への戦略や事案の進捗に関する情報を共有した。

5.2009年4月と同年7月におけるMGM 及びトラシンダとマレーシアのカジノ会社であるゲンティン・マレーシアの執行役員との協議。
6.2008年終盤から2009年当初にかけて、MGMの債務再編成のためにゴールドマンサックスを利用することの可能性に係る協議
7.MGMのマカオのジョイントベンチャーであるパンジー・ホーがニュージャージー州のカジノ管理当局から不適格とされたことを受けて、MGMの免許付与についての協議

8.2009年におけるMGMの取締役会(非公表の電話会議)への出席
9.ドバイワールド計画の現状報告及び想定費用に関する情報の入手
10.ニュージャージー州の担当者との免許付与案件に関する2009年9月の協議の結果をMGMのCEOからカーク・カーコリアンに伝達するパイプ役(conduit)として介在

ミュレン自身はクリステンセンの有罪判決(2008.8/31のconviction)後において、クリステンセンと何度も関わりを持った。

以下は、マサチューセッツ州カジノ管理委員会の調査官によりジェームズ・ミュレンに対して行われた宣誓質問調査からの引用(excerpts)である。

[質問]: クリステンセンの起訴後における彼とMGMの事業との関わりについて話をしたい。我々(調査官とミュレン)は、彼(クリステンセン)がMGMの取締役を2006年、正確には2006年2月に辞任したとの認識に立っていると思うがいかがですか。
[ミュレン]: そのとおりです。

[質問]:彼が取締役辞任後もMGMの取締役会に出席していたことを気づいていましたか。
[ミュレン]: はい。

[質問]:どのようにして知りましたか。
[ミュレン]: 彼が出席した取締役会に私も出ていましたから。

[質問]:彼が取締役を辞任した後、どれくらい取締役会に出席してか教えてください。
[ミュレン]:正確な回数は分かりかねます。5回までは行なかったように思います。

[質問]:それらの取締役会の概要を教えてください。
[ミュレン]:それらの取締役会は2006年と2007年のことだと思います。おそらく2008年にもありました。多くはMGM Grand 若しくはBellagioの建物で開かれたと思いますが正確な日時は答えられません。

[質問]:(クリステンセンのboard meetingの出席が)およそ5回というのはあなたの記憶ですね。
[ミュレン]:私の記憶です。しかしながら、彼が非公表ベースの電話による取締役会に出席していたことを後から知りました。

[質問]:彼が辞任後も取締役会に出席していた目的は何ですか。
[ミュレン]:顧問弁護士及び取締役会議長から、彼は助言者として及びカーコリアンの代理人として出席していると伝えられていました。

[質問]:あなたは当時取締役会の議長ではなかったのですか。
[ミュレン]:2008年12月までは議長ではありませんでした。

[質問]:クリステンセンは起訴された後、毎回取締役会に出席していましたが、その当時あなたは議長ではなかったのですか。
[ミュレン]:そのとおりです。私-私は、正直、彼が何回出席していたか確信が持てません。私は2006年から2008年12月まで議長ではありませんでした。

[質問]:彼が出席していたか記憶がありますか。
[ミュレン]:彼の発言を思い出せません。

[質問]:取締役会はこの部屋のようなところで行われたのですか。
[ミュレン]:ほぼこのような部屋です。

[質問]: クリステンセンの席はありましたか。
[ミュレン]:はい。当時はいつもテリー・ラニがテーブルの正面に座っていましたが、各人指定の席はなく、当時クリステンセンは取締役会のいずれかの席に座っていました。

[質問]: ニュージャージーのカジノ管理当局は、彼の起訴後取締役の辞任を求めましたね。
[ミュレン]:そのとおりです。

[質問]: クリステンセンの起訴後においても取締役会への出席を認めることは、ニュージャージー当局の趣旨に反するとは思いませんでしたか。
[ミュレン]:今はそう思いますが、当時はそう思いませんでした。

[質問]:今の回答を丁寧に説明してもらえますか。そして何故当時はそう思わなかったのか教えてください。
[ミュレン]:その理由は、カジノ業界において数十年の経験を持ち、私が深く尊敬する議長のテリー・ラニと我々の法律顧問との間で話し合いがなされ、クリステンセンの助言能力を認めて取締役会に出席させることは許容されるとされたからです。

クリステンセンの起訴後の取締役会への出席は前CEOのテリー・ラニの判断に基づくものであり、そしてテリー・ラニが2008.11/13に退任し2008.12/1にミュレンがCEOに就任した後も、クリステンセンの出席が引き継がれていたことがミュレンの宣誓証言から判明する。

ミュレンがCEOに就任したのはクリステンセンが有罪宣告を受けた2008.8/29以降であったが、彼は、今でこそ過ちだったと認めているものの、クリステンセンとの事業上の関係を断たなかった。

結局、クリステンセンの有罪宣告後13月に渡りMGMの執行責任者達(senior executives of MGM)は、彼の関与を認め続けた。MGMが採った改善措置は次に記載のとおりである。

MGMの是正措置

クリステンセンの問題を受け、MGMは自社のコンプライアンス及び法人統治機能の変更を行った。2010.4/8、MGMのネバダの法律顧問であるLionel Sawyer & Collinsのエレン・ホイットモア弁護士は、白書(White Paper)を作成し、ネバダ州のカジノ管理当局とMGMのライセンスに係る全ての州のカジノ管理当局に提出した。

白書においては、MGMがクリステンセンの判決後もクリステンセンとの関係を継続した旨を規制当局に報告しなかったことについての後悔(regrets)が記され、MGMが是正のために採る具体的なステップが記載された。その概要は次のとおりである。

・法務担当責任者であるゲイリー・ジェイコブスと辞任契約を締結する。
・コンプライアンス委員会と相談の上、クリステンセンの介在を招いた意思疎通の欠如(communication lapses)を是正するための手順を取る。
・カジノ管理当局において卓越した経験のあるネバダ州カジノ管理委員会の前委員長のウィリアム・バイブルを取締役とする。
・コンプライアンス委員会の議事録を全ての取締役間で共有する。
・取締役会の議事録をコンプライアンス委員会及びその委員間で共有する。
・CEO、コンプライアンス委員及び法務担当役員(もしくは法律顧問)は、コンプライアンス事項を討議するための月例会議に出席する。
・コンプライアンス委員は、会社の法律及び財務案件についての各週会議に出席する。
・執行役員に対するannual online training courseを奨励する
・コンプライアンス委員会の議事録を各州のカジノ管理当局に送付する。
・コンプライアンス委員会議長又はコンプライアンス委員あるいはその双方は、四半期ごとの会議において、委員会の重要事項や懸念事項を協議するための監査委員会を設ける。

加えて、社外取締役が次の勧告を行い、取締役会も承認した。
・社外筆頭取締役の役割の確立(通常の筆頭取締役の役割の移管)
・トラシンダに関係する取締役は(指名/法人)統治委員会の議長若しくは社外筆頭取締役にはなれない。
・(指名/法人)統治委員会に新たなメンバーを加え、議長を変更する。
・会社のガバナンスポリシーに、取締役は議長及び社外筆頭取締役に対して現実の若しくは潜在する係争を伝える義務がある旨の条項を追加する。

クリステンセンの案件が生じた背景の分析に関して、白書は、クリステンセンがカーコリアンとの長年の関係を喧伝し、MGMについての詳細な知見に基づき取引を行い、本人がカーコリアンに近接する助言者である旨の認識を構築し、自身を表に出さないカーコリアンとの導管としての立場を利用していたことによると結論づけている。

白書は、当時MGMが深刻な経営課題(eg..,取締役会議長兼CEOの突然の退任、収益の急減、信用上の問題、ドバイワールドの建設・財務問題、従業員のレイオフ、法人資産の売却及びドバイワールドとの論争)に直面していたことについても触れている。

MGMの経営陣は、これらの重要な問題についてクリステンセンを通じてカーコリアンと連絡を取り続けた。

白書は、また、クリステンセンは、MGMの法務担当主席弁護士であったジェイコブズと職務上緊密な関係を有しており、ジェイコブズとは、MGMの以前の筆頭外部顧問事務所である”The Christensen, Glaser, Weil, Fink, Jacobs & Shapiro”(現在はthe Glaser Weil firm)の創設メンバー同士として数十年に渡って仕事を共にしていたことについて触れている。

二人は、定期的あるいは頻繁にMGMの案件について協議していた。このような密接な関係は、法務担当主席弁護士であったジェイコブズの評価を落とすことになった。‐クリステンセンとの関係継続に係る妥当性に関して、彼は有罪判決後においても、何ら制限することはなかった。

MGMの各取締役が、クリステンセンに対し重罪が宣告されるであろうと認識していたにもかかわらず、クリステンセンの重罪宣告後の関与を知らなかったことについては特に言及しなければならない。例えば、取締役のローランド・ヘルナンデスは、2013.7/23になされた宣誓質問調査において、MGMの各取締役は、クリステンセンのMGM案件への関与が(もはや)ないだろうと思っていたと述べている。

[質問]:記憶する限り、MGMの取締役会はクリステンセンに対する判決(conviction)に対して何らかの対応をしましたか。
[ヘルナンデス]:判決に対する法人の何らかの決議を取締役会として承認したことはないと思います。

[質問]:取締役会として他に何らかの行動を取らなかったのですか。
[ヘルナンデス]:取締役会は法人の決議を受けてのみ動いており、質問への回答はNOです。

[質問]: 取締役会による協議は行われなかったのですか。
[ヘルナンデス]:協議が行われたかどうか思い出せません。

[質問]:正式ではないところでの協議をしたことはありませんか。この点について、あなたは、クリステンセンが取締役会出席やMGMへの関与をしていたことを知っていたと述べています。彼の判決により状況が変わったであろうことについて取締役の間でなんらかの協議はなかったのですか。
[ヘルナンデス]:協議はありました。ジェイコブズは、クリステンセンはカリフォルニア州で弁護士が出来なくなるだろうし、Glaser Weil事務所においても弁護士としての活動ができなくなるだろうと伝えてくれました。

[質問]:それ以外に話はありませんでしたか。例えばクリステンセンがMGMでコンサルタントやアドバイザーをするとか、法律事務所から離れてのトラシンダのアドバイザーになる等の。
[ヘルナンデス]今後クリステンセンと接触することはないだろうとの共通の認識だったと思います。彼は重罪を宣告され、弁護士の免許もありませんから。

[質問]:(あなたが述べた今後クリステンセンと接触することはないだろうとの)推測について確認したい。その推測はあなたの推測ですか、それともジェイコブズの推測ですか。誰の推測か教えてください。
[ヘルナンデス]:私は、彼と更なる接触はないという確たる考えを持っていたと申し上げます。彼と接触することはもはや出来なかったでしょうから。この件についてはジェイコブズとも検討しました。

[質問]:詳しく述べていただけますか。
[ヘルナンデス]:彼のGlaser Weil事務所での弁護士という点とジェイコブズが私に語った彼の免許が剥奪されもはや弁護士として仕事は出来ない点、要するにジェイコブズとの会話と通じて判明したそのような事実から私の考えが形成されました。

[質問]: あなた自身の確信を得るために、ラニやCEOのミュレン、あなたがクリステンセンと関係があったと承知している他の取締役、その他の関係者と、クリステンセンとの関係が終了するであろうとか彼に対する制約は法的な部分に留まるとかなどについて協議したことはありますか。
[ヘルナンデス]:特別な協議をしたか思い出せません。私は自分自身の結論ついてのみ話ができます。私は有罪判決を受けた者とそれ以後接触することはないだろうと固く信じています。そうではない状況を見聞きしたことはありません。そのようなことから私は、会社(MGM)としてクリステンセンと接触することはもはやないだろうと信じていました。
クリステンセンと更なる接触等があったかについての証拠や接触を示唆するものを確認したことはありません。そのようなわけで、私の見解としては、クリステンセンは、弁護士としても代理人としても取締役会が有能と認める友人としても、取締役会に出席することはありませんでした。私は、クリステンセンと誰かが会話したり、会ったり、何らかの付き合いをしていることに気付いたことは一度もありません。私は(接触の継続に)気づくべきでした。もっと積極的な対応をすべきでした。しかしながら特段の情報がなかった状況下において、我々はクリステンセンとの接触はないと信じておりました。

[質問]:何故あなたは、MGMが重罪宣告者と関係を続けるべきではないとそこまで強く言えるのですか。
[ヘルナンデス]: ネバダのカジノ法に反し、合衆国の法に反するからです。

6当局の対応

2010年にミシガン州のカジノ管理委員会(MGCB)は、MGM Grand Detroit LLCに対し行政処分を行った。処分はクリステンセンの起訴についてMGMがMGCBに対する文書での報告を怠ったことによるものであった。MGMのネバダ州の弁護士が2006.2/15に当該起訴について電話でMGCBの責任者に連絡したのみであった。2011.11/9にMGCBは、Acknowledgement of Violationにあたるとして$225,000の罰金及びその支払い命令を課し、MGMは支払いに同意した。
1.$150,000を支払命令から60日以内に支払う
2.$75,000は1年間支払猶予

2013年10月に、メリーランド州のカジノ管理委員会(MLGC)は、MGMに対し、個人の役職者及び主な事業体はクリステンセンと個人的若しくはビジネス上の接触を持たず、予期せぬ接触があった場合には、MLGCにその旨報告することを条件に下に免許申請を認めるとの結論を下した。クリステンセンに係る調査を起因とした(MGCB以外の)他の当局からのMGMに対する処分は行われなかった。

ニュージャージーの州のカジノ管理委員会(NJDGE)は、MGMが2009年に同州への進出を撤回したことから、(それまで行ってきた)調査を中断していたが、MGMが2013年2月に再申請を行ったことから、NJDGEはMGMの廉潔性を確認するための調査(reviewing)を行っており、2014年にはMGMの適合性に係る調査(investigation)を行うこととしている。

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